図書館には妖精がいる ④
私が担当さんと会うのはこれが二回目だ。私がこのベッドで目を覚ました時、担当さんはゆあれちゃんのベッドの端に座っていた。真夜中で、水色のベッドの主はまだ書庫にいた。担当さんは、私たちについて基本的なことを淡々と教えてくれた。図書館の妖精は、夜の書庫で物語を食べる。すると、胸に下げたインク瓶にインクが溜まる。妖精のインクを運命の人間に渡すまで、図書館から出られない。あとは「おともだち」に聞いて、と言って、担当さんは水色のベッドに潜り込み、そのまま消えてしまったのだった。
「ゆあれさん」
「えっあたし、なに」
「あなたのインク瓶がすぐに溜まるときと、そうでないときがあるでしょう。どんな違いがあるか、わかっている?」
「……え、あ、……うー」
ゆあれちゃんは目を泳がせている。担当さんがちょっと首を傾げて、そよそよとほほえんだ。
「笑わないわ」
こわばっていたゆあれちゃんの肩が、ちょっと和らいだ。……どうして本を読むとインクが溜まるのか、担当さんは、その仕組みを教えてくれなかった。ゆあれちゃんのインク瓶が私のより早くいっぱいになるのは、瓶が小さいからというだけでなく、インクがどんどん湧いているからだ。でも、その理由はわからない。
普段は鈴を転がすようなゆあれちゃんの声が、今は慎重に、切れ切れに響く。
「……時間が、短く、なるとき?」
担当さんが淡々と言う。
「なあに、あなたの意見なのだから、疑問形にしなくていいわ」
「文句を、言わないでくださーい、笑われてるのと同じでーす」
「すまなかったわね。でも、正解よ。私が用意していたよりも、ずっといい答え。さすがだわ」
満足そうに、紫の瞳が細められた。ゆあれちゃんは驚いて、私の手をはたと掴んだ。
「なに? 槍とか降る?」
担当さんはため息を吐きながら、怠そうに頭を振った。ヘッドドレスの細いリボンたちが、生き物の足のようにゆらゆら揺れる。
「降ったとしても、私のせいじゃないわ」
手首を掴む力が弱くなった。私は自由な左手で、ゆあれちゃんの手の甲を軽く撫でる。担当さんは、背筋を伸ばして、ひとつ頷いて言った。
「あなたたちのインク瓶にインクが溜まるのは、心が動いたとき。蔦子さんには、新聞以外のものを読んでみることをおすすめするわ。一度、ゆあれさんと一緒に、本を選んでみて」
「!」
ゆあれちゃんが、反射的に、私の手に手を重ねてきた。担当さんは、それではごきげんよう、と微笑んで、帰っていった。ゆあれちゃんのベッドに潜り込んで、頭まで布団を被り、瞬きのうちに姿を消すという、あのやり方で。
「~! 女史、また靴履いたまま……っ」
ゆあれちゃんは、今や平らな掛け布団に向かって憤りを表明した後、くるりをこちらを振り向いた。打って変わって、満面の笑みを浮かべている。
「蔦子ちゃんと、一緒に本を読む! たのしみ!」
私も微笑む。ゆあれちゃんの手のひらに挟まれた腕が、ぽかぽかと温かいような気さえする。
「うん、楽しみ」
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