眠いなら紅茶を飲めばいいじゃない

 居間の明かりが点いているな、とは外からでもわかっていた。だけど、中にいたのが桜間さんでものとみでもなかったのには驚いた。水色のパジャマの肩に下ろされている髪が、まだ微妙に濡れている。ドライヤーに飽きたのだろう、いつものように。

「明日、お店開ける日じゃないの」

「うお! びっくりした!」

 がば、と振り返ったゆあれは、やっぱり眠そうな目をしていた。

「え、遅かったねえ。おかえり」

「飲んじゃったから。楽しかったけど。私もすぐ寝るよ」

 あんたは、と言外に尋ねると、ううん、と眉根を寄せた。

「なんか、緊張して、ちゃんと喋れっかな~って、お茶飲んでたら、眠れなくなった」

「ば~~~か」

「え~~~ん」

 ゆあれはアホなので、何度でも同じ間違いをする。目を不等号みたいにして、でも深夜らしく抑えた音量で、嘆く。テーブルの上には、四角い紙切れが散らばっていた。紅茶に同封する、美味しい淹れ方のメモ用紙を作っているらしい。

「さすがにカッターはやめといたら。眠そうで危ない」

「カヌレにリボンかけるの終わっちゃったんだよ~」

「じゃあ、寝な」

「寝る。寝らんない」

「おやすみ~」

「ひどくない!?」

 目を丸くして抗議するのを無視して、洗面所に行き、手と顔を洗う。頬のほてりが落ち着いて、気持ちがいい。夜用のパックを顔に広げる。歯を磨き、パックを外して、新しい紺色のフェイスタオルを掴んで居間に戻ると、テーブルの上が片付き始めていた。言うことを聞いているらしい。

 タオルを頭の上に置いてやる。

「はい」

「あ、髪を拭けってか。いいんだよ、どうせお団子にするんだから。風邪引く時期じゃないし」

「じゃない。タオルでも被って、電気消してれば、そのうち眠くなるでしょ?」

「あっ優しい。なんか瀬名泉みたい。そうするかな~」

「だぁれが後輩いびりが趣味だってぇ~? ……そうしなさい」

「だいたい、お前が後輩だろ」

「タオル、洗濯機に入れてこようかな」

「ごめんなさいおやすみなさい」

 早口で片手を立てるゆあれの手のひらに、軽く拳をぶつける。はい、おやすみ。寝坊しないようにね。